- 看護師と行政保健師の給料体系について
- 看護師と保健師の年収の差が経験年数で埋まる理由
- 長期的にみると行政保健師の方が昇給しやすい理由
行政保健師に転職したいけど給料ってどれくらいなんだろう。やっぱり看護師より下がるのかな…
看護師から行政保健師を目指す方なら必ず考えることの一つに「保健師の給料」があります。「看護師は稼げる」ということはよく聞きますが、「保健師は稼げる」と聞くことはあまり無いのではないでしょうか。
行政保健師に転職したいけど、給料が不安で一歩踏み出せないという方も多いでしょう。
これについては働く場所や年齢、キャリアによる差が大きいので、どちらが稼げるかということは一概には断言できません。同年代で見た場合に看護師より給料が高い保健師もいますし、その逆もあります。
しかし、結論を言ってしまうと、経験年数による職位の昇任に伴う給料の上がりやすさは圧倒的に行政保健師に軍配があがります。
私自身が看護師も行政保健師も両方やってきた経験から、組織の内部にいるからこそ見えてきた給料体系の違いや仕組み、長期的に見た展望について解説したいと思います。また、私の行政保健師時代の給与明細も公開します。
この記事を読むことで、給料が不安で行政保健師に転職するか迷っている看護師の方は平均年収だけでは見ることのできない行政保健師に転職した時の給料、さらに将来的な給料について知ることができます。
▶公務員試験合格までの流れはこちらで解説しています。
看護師と保健師の平均年収を比較する
- 看護師の平均年収は508万円
- 保健師の平均年収は481万円
まずは平均年収から比較していきますが平均年収だけで比較するのは実はナンセンスです。冒頭で述べたように働く場所や年齢、キャリアによって給料は全然変わるからです。
大事なのは自分ならどれくらいの年収で、将来どうなるかです。なので、平均年収については参考程度に眺めていただくだけで結構です。
看護師の平均年収は508万円
厚生労働省が発表する「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、令和4年の看護師の平均年収は508万円です。看護師の平均年収は年々上昇傾向にあります。また、令和4年の日本の平均年収は489万円なので全国平均より高い水準にあります。
出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」
ただ、あくまでも平均年収なので、以下のような様々な勤務先や勤務形態の看護師すべての平均です。
- 病院で夜勤も行う正看護師
- 病棟師長や病院の看護部長など
- 病院の外来で日勤のみ行う正看護師
- 病院でパートで勤める看護師(ボーナスなし)
- 施設に勤務する看護師
- 訪問看護ステーションに勤務する看護師
ほんの一例ですが、様々な勤務先やキャリア、勤務形態がある中での平均で算出されたものになります。
保健師の平均年収は481万円
一方で令和4年の保健師の平均年収は481万円です。令和4年の日本の平均年収は489万円なので全国平均とほぼ同じ水準にあります。
出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」
保健師も看護師と同様、以下のような様々な勤務先や勤務形態の保健師すべての平均です。
- 自治体で公務員として働く行政保健師
- 民間企業の社員として働く産業保健師
- 病院の健診センターなどで働く保健師
- 大学の健康管理室などで働く保健師
基本的に夜勤がないのが保健師の特徴ですが、保健師も役職や勤務時間の差で個々の年収には大きな差があります。
看護師と保健師の給料の差はどこで生じるのか
- 福利厚生による差
- 残業代による差
- 賞与(ボーナス)による差
- 役職・管理職手当による差
- 基本給による差
- 夜勤手当による差
看護師と保健師で平均年収に27万円の差があることが分かりました。結論、この平均年収で生じる差で最も影響が大きいのは夜勤手当ですが、それぞれについて解説します。
福利厚生による差
看護師の勤務先は一般的に民間病院が多く、一方で行政保健師は公務員ですが、福利厚生という点では両者に差はなく、ここで給料に大きな差が出ることはほぼありません。
福利厚生の例を挙げると、
福利厚生の例 | 概要 |
---|---|
健康保険/厚生年金 | それぞれ保険料を職場が折半 |
住宅手当 | 賃貸住宅の家賃補助 |
通勤手当 | 通勤距離に応じた手当 |
扶養手当 | 扶養親族がいる場合の手当 |
地域手当 | 地域の物価に応じた手当 |
大体このようになりますが、これらの福利厚生はごく小規模なクリニックなどを除き、ある程度の規模の病院に勤める看護師なら公務員とほぼ同じ水準で受給できます。
今や民間病院も公務員と同水準の福利厚生が受けられる時代です。
残業代による差
残業代がつかないブラックな職場を除き、どこの職場であっても同様に残業代は支給されます。
「看護師だから」、「保健師だから」という理由で両者の残業代に差がつくといったことはありません。残業が多い看護師もいれば残業が多い保健師もいます。
よって残業代で看護師と保健師の給料に決定的な差が生じることはありません。
賞与(ボーナス)による差
令和4年の賞与(ボーナス)は以下のようになります。
看護師 | 保健師 |
---|---|
約86万円 | 約80万円 |
これをみると看護師の方が賞与(ボーナス)の平均支給額は高いですね。
ただし、こちらの記事でも解説していますが、保健師の勤務先の7割以上は行政機関であり、同時に公務員です。
基本的に公務員の給料や賞与(ボーナス)は民間企業の水準に合わせるように設定されていますので、行政保健師の場合は周囲と比較して極端に高いこともなければ低いこともありません。
病院はほとんどが民間企業という立場なので、病院によって賞与(ボーナス)が全然出ないところもありますが、行政保健師にはこういったことがありません。
行政保健師のボーナスは良くも悪くも安定しています。
役職・管理職手当による差
看護師にも保健師にも役職があります。役職手当、管理職手当として支給する職場もあれば、「階級」や「号棒」が引き上げられ基本給が昇給する職場もあります。
以下の表は職種と役職の有無による給料への付加と役職のつきやすさ(なりやすさ)を一覧にしたものです。
職種 | 有無 役職の | 昇給 | つきやすさ 役職の | ||
---|---|---|---|---|---|
看護師 | 基本給↑ or 手当支給 | ||||
なし(定期昇給のみ) | |||||
行政保健師 | 基本給↑ or 手当支給 | ||||
なし(定期昇給のみ) | |||||
(行政以外) | 保健師基本給↑ or 手当支給 | ||||
なし(定期昇給のみ) |
看護師の場合、主任や副師長、師長、副部長、部長といった管理職で手当が付くことが多いです。病院によっては認定資格、専門資格、NPなどに手当がつくこともあります。
一方、保健師の場合、行政保健師であれば様々な職位があるので、職位が上がるたびに給料が上がります。この時、役職手当というよりは「階級」や「号棒」が上がり基本給が上がることが多いです。
行政保健師ではない保健師の場合、例えば産業保健師などでは固定で資格手当がつくことがありますが、職位が上がることはほとんどないので、基本給が定期昇給する程度にとどまります。しかし、大企業であればそもそもの給与水準が高いです。
役職のつきやすさについては大事なことなので後ほど解説します。
看護師も保健師も職位による昇給があるのは基本的には変わりません。
基本給による差
新卒看護師の基本給は大体20万円~21万円程度です。保健師の基本給は自治体によって異なりますが、看護師とほぼ同じくらいです。
基本給が年間で5,000円~1万円昇給するのは看護師でも保健師でも同じで大きな違いはありません。
看護師は転職して病院が変わった際には経験年数が加味されて基本給が引き継がれるような体系になっています。
看護師から保健師に転職した場合はどうなるの?
看護師から保健師に転職した場合も基本的に経験年数が加味されるので安心してください。大体は自治体の募集要項に「初任給は経験年数を加味して決定する。」と書かれています。
私は7年間看護師をした後に行政保健師に転職しましたが、行政保健師1年目の基本給は26万円くらいからスタート(職位なし)しました。
基本給については看護師でも保健師でも「看護職」として扱われることが圧倒的に多く、両者に大きな差は生じません。
夜勤手当による差
看護師と保健師の勤務形態の大きな違いは夜勤の有無であることは誰でも最初に思いつくと思います。夜勤手当の単価と夜勤の回数にもよりますが、1回1万円の夜勤を月に5回やれば単純に5万円の差が生じます。
保健師には夜勤手当に代わる手当ってあるの?
保健師にも特有の手当(特殊勤務手当といいます)がありますが、一回100円~200円程度のもので夜勤手当の遠く足元にも及びません。
どんなに手当が付いた月でも1,000円から2,000円くらいが限界です。当然0円の月もあります。
ここまでで、福利厚生や残業代、役職・管理職手当で大きな差は生じないことが分かりますので、基本給が同じ看護師と保健師を比較した場合、単純に夜勤手当の分だけ給料に差が生じること分かります。
看護師と保健師の平均年収に大きな差をつけている要因は夜勤手当であることが分かりました。
平均年収より大事なのは給料の中身を知ること
- 看護師は夜勤手当頼みである
- 行政保健師は役職や職位頼みである
令和4年の看護師と保健師の平均年収の差は27万円ですが、月額にすると2万ちょっとの差です。これが夜勤手当だけの差だと考えるとかなり少ないと思いませんか?
先ほどの表です。
職種 | 有無 役職の | 昇給 | つきやすさ 役職の | ||
---|---|---|---|---|---|
看護師 | 基本給↑ or 手当支給 | ||||
なし(定期昇給のみ) | |||||
行政保健師 | 基本給↑ or 手当支給 | ||||
なし(定期昇給のみ) | |||||
(行政以外) | 保健師基本給↑ or 手当支給 | ||||
なし(定期昇給のみ) |
全保健師の7割以上を占める行政保健師は役職につきやすいという特徴があるので、これにより夜勤手当による大きな差が埋まっているという実情があります。
つまり、看護師は夜勤手当で稼ぎやすい一方、行政保健師は職位による昇給を狙いやすいということになります。
看護師は夜勤手当頼みである
看護師が役職につくのはかなり大変であり、覚悟が必要ですし皆がなれるわけではありません。
主任という役職のある病院でも1病棟に1人か多くても2人のベテランが配置される程度です。副師長になるには昇任試験が必要であったりしますし、師長になるにはその中から選ばれた人です。
しかも看護師が役職につくと一般的に夜勤の回数は激減するため、夜勤手当が付かず役職手当がついても結果的に役職につく前より給料が下がることもあります。それなのに看護師の役職は仕事や負担が増えてかなり大変です。
私は看護師の役職につきたいと思ったことは一度もありません…
行政保健師は役職や職位頼みである
行政保健師は自治体により種類や呼び方が変わりますが職位が結構あります。例に挙げると、主任ー主査ー担当係長ー係長ー課長補佐-課長などです。
もちろん最初のうちは職位はありませんが、ある程度経験年数を積むと職位は上がります。看護師のように昇任試験があるわけでもなく、何か特別大きな活躍をしなければならないということもないです。
正直、普通に真面目に働いていれば年功序列で職位は勝手に上がっていきます。任される仕事の難易度や責任は多少は増しますが、係長以上にでもならない限り普段の業務内容と大きな違いは生じません。
私の場合、主任になって2~3万円くらい基本給が上がりました。
この職位の上がりやすさが看護師と行政保健師の夜勤手当という大きな差を埋める要因です。
それでも看護師の方が平均年収が高い理由とは
- 若手の看護師がガンガン夜勤で稼ぐから
- 行政保健師が職位につくまでには時間を要するから
保健師の7割以上を占める行政保健師が、職位の上がりやすさという特徴を持ちながらも平均年収は看護師の方が高い理由は、若手の看護師と若手の保健師の給料の差が大きいからです。
若手の看護師がガンガン夜勤で稼ぐから
例えば月に7~8回夜勤をする25歳の看護師と25歳の行政保健師を比較します。当然この年齢では両者ともに職位はありません。福利厚生も基本給も変わりません。
よって給料の差は夜勤手当の分出ます。20代の看護師が全員夜勤をするわけではありませんが、大半が主戦力として月に複数回夜勤に入りますので、若手の保健師は若手の看護師に給料で上回ることはまず出来ないでしょう。
行政保健師は若いうちは同年代の看護師と比べると本当に薄給です。
行政保健師が職位につくまでには時間を要するから
行政保健師が職位につくにはある程度時間を要します。
職位なしから一つ目の職位につくまでには早い人でも最低5年くらいはかかることが多いです。場合によっては7~8年以上かかる自治体もあります。
若手の行政保健師が職位につくまでの間に、同年代の看護師に収入面でどんどん差を付けられているということが平均年収に差がついている実態です。
若手では看護師の方が給料は上!でも長期的に見ると逆転する
若いうちは同年代の夜勤をしている看護師に給料面で太刀打ちすることは出来ませんが、行政保健師も10年以上の中堅になってくると、同年代の夜勤を頑張っている看護師の給料に追いつけるようになってきます。
最初は薄給で苦しい時期が続きますが、逆に看護師にとって夜勤が辛くなってくる時期やライフスタイルの変化で夜勤ができなくなってくる頃に保健師は収入面で安定してきます。
個人的には夜勤をせずに、夜勤をしている看護師の給料に追いつけるというのは非常にメリットが大きいと思います。また、当然ですが夜勤手当は夜勤をしないと貰えませんが、職位による昇給はずっと続きます。
行政保健師は最初は我慢が必要ですが、長期的にみると収入面は安定し、定期的に職位による昇給が望めるのが強みです。
実際の給与明細を大公開!
最後に参考までに私の看護師時代の給料と行政保健師の給料を公開します。
看護師時代の給料
看護師時代の給料は残念ながら明細まで残っていませんでしたが、行政保健師に転職する直前の8年目の時は大体以下のような内容でした。(残業なしの場合)
- 基本給…26万円
- 住宅手当…2万7,000円
- 夜勤手当…5万円
- その他手当…8,000円
- 税金、社会保険料… -7万円
- その他… -5,000円
- 総支給額…34万5,000円
- 差引支給額(手取り)…27万円
あまり給料の良い病院ではなかったので、こうしてみると夜勤があってなんとかもちこたえてるという感じですね。大体全国の看護師の平均月収くらいです。
行政保健師時代の給料
実際の行政保健師時代の明細です(細かくてすみません)。地域手当の額や寒冷地手当の有無によりある程度自治体が絞れてしまうので念のため両方を隠しています。
残業はしない主義なので、残業代は0円です。看護師時代に夜勤をしていた頃とほとんど同じになります。
こちらはボーナスの明細です。
6月と12月ともに総支給60万円くらいだったので年間120万円くらいでした。R4年の看護師の平均ボーナスが86万円で、保健師が80万円でしたから、結構貰っている方ですね。
大企業とほぼ同じ年間4.45か月分でした。やはり公務員は強いですね。
まとめ
- 看護師と保健師の平均年収の差は主に夜勤手当で生じる
- 看護師は夜勤手当が命綱
- 保健師は職位による昇給が命綱
- 夜勤手当は夜勤をしなくなったら当然貰えない
- 一方、職位による昇給はずっと続く
- 看護師が職位につくのは難しく大変
- 行政保健師は真面目に続けていれば勝手に職位がつく
- 若いうちは行政保健師は薄給で辛い
- しかし中堅以降は夜勤をしている看護師に追いつき始める
看護師から行政保健師への転職を考えているけど、給料事情がどのようなものなのか不安という方が、平均年収だけでは見れない行政保健師の給料の中身や実情、将来的な展望について少しでも理解できましたら幸いです。